私とあなたを結ぶもの。
アクセサリーにして
届けたい。
熊本の二人の女性アーティストが、
2010年からスタートしたユニット「itiiti」。
2人が手がける、県の名産品である
い草を素材とした独自のアクセサリーが、
いま注目されています。
い草の主な産地である
八代にゆかりのある2人に、
活動に込める思いを聞きました。
ピアス1つにつき
約1,000粒、
長さにして3mの糸通し。
1日に制作できる数は
5つにも満たないそう。
直径4cmの片耳タイプ「TEN」、
ツートンカラーの「HANABI」など、
ラインナップも豊富。
驚きの軽さとやわらかさ。
い草の原草は
福岡県柳川市の
染色工場へ持ち込まれ、
専用の機械で鮮やかに
染められます。
“分解と集積”が「itiiti」のコンセプト。
ものを最小単位まで分解し、構築し直すという手間に対して人からかけられた、
「何で“いちいち”そんなことするとね?」
という言葉から、ユニット名を付けました。
また、「“i”は人を表していて、i(生産者)+ ii(itiitiの2人) + i(消費者)として、生産者と消費者の架け橋になりたいという気持ちがあります」
と二人は語ります。
畳のイメージを
覆す新しい形。
「itiiti」の村上貴美さんと田中典子さんが出会ったのは、熊本デザイン専門学校入学時。インテリア科で建築デザインを学んだ級友の二人は、卒業後に建築の道へと進みます。その後も交流は続き、熊本市内の旧河原町繊維問屋街で、県内外から多くのクリエイターが集まって月に1回開催される「河原町アートの日」の会場へ、よく足を運んでいました。
作品発表の有無に関わらず、つくり手たちが自由に作品を持ち寄り、交流の場ともなっている様子に触れ、ものづくりに対する強い刺激を受けた二人。対話を重ねる中で、「ものに新しい姿や価値を見出したい」という思いをたがいに持っていることに気づきます。2010年、職を辞した二人は、プロダクトユニット「itiiti」を結成。アクセサリー制作を始めました。
建築デザインから
アクセサリー制作へ。
熊本県は、畳の素材であるい草の生産量が全国一。「伯父がい草農家だったこともあり、い草は身近なものでした」(田中さん)。これを使って何かできないかと考えていた18年、大学生からい草を商品化するデザインを依頼されます。「素材そのものに背景があるものをデザインする奥深さに気づき、本格的にい草で制作をしようと考えました」
伯父さんから提供されたい草を手にし、小さく刻むことから始めた二人。中がスポンジ状であるい草の特徴を生かそうと、銀糸を通して編み込み、アクセサリーにすることで、畳のイメージから解放された、新しい形を現しました。「小さい頃からい草の原草を見ていたからこそ、このデザインが浮かびました」。アクセサリーを見たい草農家の方々からも、「あのい草がこんな姿になるとは」と驚きの声があがったそうです。
い草の断面を並べた壁面アート。
敬愛する建築家
ル・コルビュジェが手がけた、
フランスのロンシャン礼拝堂の窓と同じ縦横比で制作。
新たな姿や
価値を求めて。
二人は次のステップとして、アート作品としてのい草の可能性を模索しています。特徴的な断面が並ぶようにフレームに敷きつめた壁面アートなど、個人の装いを超えて、生活空間を彩る大きな作品の制作を始めました。
「畳の需要が減り、いま国内に流通するい草の約8割が外国産です。私たちが手がけるものを通して人の目に留まり、買っていただけることが、ささやかでもい草の需要につながればと思います。そしてこれからも、誰も目にしたことのない新しい草の姿をお見せできたら」。ときに大きく、ときにこまやかにい草を見つめる二人。その言葉には、プロダクトを通してものの新たな価値を見出したいという、「itiiti」の原点の思いがありました。