安心ときれいを
ぎゅっと詰めて。
熊本発、心潤う
“思いやり石けん”。
天然素材の石けんを2か月かけて手づくりする。
そんな大変なことを豊田希さんが始めたきっかけは、肌の弱い娘さんに安全な石けんを安心して使わせたいという思いからでした。
南阿蘇の小さなアトリエ「Ladybug」から、素敵な物語をお届けします。


肌によいものを
使ってほしい。
福岡から結婚を機に移住してきた豊田さんが最初に魅入られたのは、阿蘇のきれいなお水でした。このお水を使って何かできないか、そう考えていた豊田さんが石けんづくりに進んだきっかけは、娘さんの肌のアレルギーだったそうです。「我が子に安心して使わせることができる石けんを自分でつくる」と決意し、2006年、阿蘇のお水と上質な天然油脂素材だけのシンプルな石けんが完成しました。
つるっとした洗い心地で、湯上がりのクリームをつける前からお肌がしっとりする『Ladybug』の石けんは、使い続けているとお肌がふっくら。毎日のお風呂が楽しくなります。大人にこそおすすめしたい、上質な美容成分をたっぷり含んだこの石けんの秘密は、その製法にあります。2か月弱の長い工程を経る製法は、豊田さんが娘さんのためにと選んだもの。けれどもやがて、ほかにもこの石けんを喜んでくれる人がいるのではと、本格的な開発と販売を開始。たった一人のためにはじまったやさしい石けんは、日本のさまざまな土地と縁を結び、文字通り色鮮やかな物語が込められていったのです。


林の中にあらわれる、
ミントグリーンの外壁がかわいいお店。
カラフルな石けんが並びます。
Story
of
Soap

『Ladybug』の石けんは、その高品質はそのままに、熊本をはじめとするさまざまな土地の素材が使われ、色とりどりの姿をしています。
そこに込められた物語を読んでいきましょう。

熊本県山鹿
菊鹿シャルドネ
無農薬で育てた葡萄を素材としたワイン「菊鹿シャルドネ」。搾ったあとの葡萄を捨てるのではなく、活用したいという農家さんの話を聞いたそうです。豊田さんが驚いたのは、まだ使いみちもないのに、農家さんが葡萄を粉末に加工し保存していたこと。「本当によい葡萄だから、もったいない」という熱意が伝わり、ポリフェノールがたっぷりの、ワインレッドの美しい石けんができました。

福島県只見
えごま
只見町のえごま農家さんが教えてくれた熊本とのつながりは、2011年の東日本大震災にさかのぼります。只見川が氾濫(はんらん)し被災した町に、支援に訪れた何台もの熊本ナンバーの車。そのことをずっとおぼえていた町の人たちは、熊本地震が起きた16年、雪祭りでくまモンの雪像をつくり復興を祈ったそうです。熊本とは異なる、豪雪地・只見町の景色。そんな違う景色を持つ土地同士の心のつながりに、豊田さんは感銘を受けました。只見町の人たちが長い冬の間ずっと待ちわびているという、春の桜色を石けんに込めて。

Birthday
記念日や出産祝いにぴったりのものをと、ずっと思案していたそうです。はなやかな色味で、どんな肌質の方にも使いやすい馬油とライスオイルを配合。「お子さんにとっては特に、見た目に楽しいことも大切だと思っています」と豊田さん。品質はもちろん、見た目の美しさ、楽しさで毎日使いたくなる石けんを。豊田さんの根底にある思いが詰まっています。

熊本県南阿蘇
すずめの湯
美肌の湯・泥湯が有名な、地獄温泉「すずめの湯」は、「Ladybug」がある高森町の隣町にあります。熊本地震で被災し、お湯が出なくなりました。その復興への熱意を前に、自分も何か協力をと石けんをつくりました。アルカリ性の石けんに、強酸性の温泉の成分を損なわずに配合することは難しく、多くの試作を重ねたそうです。閉鎖の間、「奇跡の湯」とも言われるこのお湯を全国に届け続けた石けんは、豊富な湯量がよみがえったいまも人気商品です。

熊本県南阿蘇
あわゆき
こちらで紹介している、阿蘇の恵みたっぷりの搾りたて「ASO MILK」を使用しています。阿部牧場から、「自慢の牛乳を使ってくれないか」と言われたことがきっかけだったそうです。牛乳のミルキーな色合いと、格段にしっとりする洗い上がりが大人気。いろんな石けんを試したあと、これに戻ってくる人も多いそう。

熊本県南阿蘇
阿蘇れいざん
阿蘇の地酒「れいざん」を素材にと思い、蔵元の山村酒造に相談して完成しました。発売当初から地元新聞で話題になり、南阿蘇で石けんづくりを続ける決意につながった、思い出深いものだそうです。日本酒の香りがほのかに漂う、酒粕をたっぷり練り込んだ石けんは、お肌の老廃物排出を促してくれます。阿蘇山とたなびく雲をイメージした模様が美しい。
手間のかかる
製法を
選んだ理由。
「よい油を使って、手間と時間をかけてつくる。こういう石けんがいいのはみんなわかっているけど、なかなかできないんですよね」と豊田さん。油脂とアルカリの化学反応から生じる熱で固体化させるコールドプロセス製法は、非加熱なぶん、時間をかけて熟成させていきます。大量生産には不向きなため、製品化できるのは月に1500個ほど。けれども、熱で壊れやすい美容成分を、損なわずに閉じ込めることができているのです。
豊田さんのアトリエは、色とりどりの小瓶が並ぶ、清潔感のある素敵な空間です。しかしそこには、大量の液体をていねいにかくはん攪拌し、石けんが固まる前に手際よく模様を入れていく、3時間弱動きっぱなしの豊田さんの姿がありました。アルカリ水溶液の火傷のあと痕がいくつもあるその手で作業しながら、「力仕事がこれからもできるように、最近ジムに通いはじめました」と明るく笑うのです。
型に流し入れた石けんは保温庫で約1週間、急激に温度が下がらないように、ゆっくり冷まします。その後、型から外してカットし、熟成棚に移動させて1か月置きます。できあがるのに2か月弱かかってしまうので、新作を開発するときも、仕上がりを想像しながら何パターンも用意します。


重い寸胴を持ち上げ、
香りや色付けをしていきます。
「洗い心地や洗浄力は、pH値(水素イオン濃度)であるていど確認することができますが、見た目や香りも大切です。使うときにどんな気分になるかを想像しながらつくっています」と、紫とピンクの二層をていねいに型に流し入れながら教えてくれました。手づくり石けんゆえに、少しずつ違う模様や色。それでも一つひとつ、「今日は前より素敵にできたかな」と考えているそうです。


ていねいで素早い作業が
品質につながっています。
店名の『Ladybug』は「てんとう虫」という意味です。建物を譲り受け、自ら掃除しペンキを塗って完成させたお店には、たくさんのてんとう虫が先に住んでいました。植物の先端まで登っていって、おてんとう様めがけて飛び立つ。そんな名前の由来が、そのときの気持ちにぴったりだったそうです。たった一人、娘さんのためにとはじまった石けんはいま、日本中へと飛び立ち、たくさんの人を笑顔にしているのです。

自然のあたたかみの中に
宝物のような石けんが並ぶ店内。

びっしりとアイディアが書かれた
石けんのレシピノート。

豊田希さん
2006年より手づくり石けん『Ladybug』のオーナー。全国各地の魅力的な素材を使って、精力的に新作開発をしています。
