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足さない、引かない、されど、美味い。料理人 菱江隆の世界(後編)

2026/02/17

足さない、引かない、されど、美味い。料理人 菱江隆の世界(後編)

Photo/
Nakanishi Hirohito, Laurent Mana, Mori Kenichi
Text/
Yoshimatsu Teruaki, Sakai Yuji

足さない、引かない、されど、美味い。料理人 菱江隆の世界(前編)

日本で拠点として
選んだ熊本の地

 帰国して、まずは妻の地元である福岡に住みました。福岡ではホテルの仕事はせず、お弁当屋さんを開きました。というのも、ホテルの高額な料理を食べられるお客さんというのは、日本人の一握りだろうと思ったからです。弁当なら5〜600円ですので、それで完全無添加で広げた方が早いと考えました。しかし、福岡だといろんな人が訪ねてくるから、都会を離れようと妻が言いまして。それで、選んだのが熊本の黒川温泉の近く。日本一、水道水がきれいで美味しいことが熊本に住む理由です。料理には水が大事ですから。熊本に拠点を定めてから、店と工場を作り、食品監修や講演活動などを積極的に行っています。

若いお母さんたちが
変わってきている

 自分が無添加普及の活動をはじめた20年ほど前は、理解されておらず、食品のバイヤーさんと話しても、無添加は美味しくなくて売れない、といった認識でした。それが変わってきたのは、世の中の健康意識が高まったからだと思います。特に子供を持つ親御さんの意識が変わってきた。世の中にアレルギーやアトピーが広まって、自分の子に健康に育ってほしいという思いが高まってきた。

――講演ではどういったお話を?
 お子さんを持っている方を対象にすることが多いですね。子供に対する愛情というのを訴え、添加物を使わなくても美味しいものが作れますよ、と。食の安心、安全を打ち出して講演しています。子供の味覚ができあがるのが小学校3〜4年生ぐらいまで。食べるものの種類が一気に増えるのもこの時期です。この時期に添加物が多い食品を食べていると、味覚障害がおこってしまったりするんです。そうするとそのまま大人になった時に、本来の味がわからなくなってしまいます。

“料理は愛情”に
込められた思い

――「料理は愛情」という理念についてお聞かせください。
 愛情を持って作れば、料理は美味しくなる、ということです。親は子供に対して、健康であってほしいと思う。その愛情を持って、手間をかけて料理するから美味しくなる。だから、料理は技術じゃないと私は言い続けています。親の子供に対する愛情。それが料理にとって一番大事だと思います。

目指したのは
ホテルの厨房

菱江さんの工場では料理人が商品を作ります

菱江さんの工場では料理人が商品を作ります。

 10月下旬。編集部は熊本・南小国町にある菱江さんの工場を訪れました。現在、この工場では100種類を超える商品が作られています。その内、7割を占めるのがドレッシングやソースです。
 「小さな工場ですが、やっていることは最先端だと思います」
 そう言って、菱江さん自らが案内してくれました。
 「ここはホテルの厨房のイメージのため、全てを手作りすることを目指しています。基本的に機械には頼りません。野菜で考えたらわかりやすいのですが、同じ野菜でも季節によって含水量が違います。含水量が変われば濃度も、甘さも変わる。それを機械が感知できるかといったらできない。だから料理人の感覚が必要になります。そのため調理スタッフは料理人のみです」
 現在はコロナ禍のため受け入れを止めていますが、通常時は全国から学びに来る料理人たちを受け入れています。最も多いのが帝国ホテルの料理人とのこと。菱江さんの元で半年ほど修行しますが、工場の仕事も学びの一貫。つまり、キングフーズの商品は全てプロの料理人が作っているのです。
 さらに驚きなのが、ここで作られるドレッシングは常温でも180日持つこと。普通の工場なら保存料を使うところですが、ここではもちろん使用していません。それを可能にするのが、酸性濃度の徹底した管理だといいます。大きな工場ともなれば、様々な測定器がありますが、ここにはそれらが揃っている。そこが他の小規模な工場と違うところだといいます。
 なお、添加物の使用ハードルは、最も高いヨーロッパ基準に設定。基本的に無添加のものしか許可されない厳しい基準です。そのため、製造できるのは日産で約700本。商品の賞味期限を可能な限り長く保つため、受注生産の形をとっています。

無添加であり、美味しい。そんなこだわりの料理がここから広がってゆく。

無添加であり、美味しい。そんなこだわりの料理がここから広がってゆく。

日本中から食に関する
あらゆる悩みが届く

 菱江さんの存在を知った企業、加工業者、飲食店、行政、個人農家まで、あらゆる食の監修・開発依頼が工場に届くといいます。余った野菜を活かしたい、缶詰を作ってほしい、地元の名物を作りたい、味が美味しくならない……。加工会社を知らない時は紹介してあげる。時には添加物だらけの商品を無添加で再現し、驚かれることもあるといいます。
 菱江さんの目指す無添加普及を理解してくれるなら協力は惜しまない。ここを訪れた人は、助けられると同時に、添加物に頼らなくても、おいしいものができることを知る。それを体験した作り手が増え、彼らが手がけた商品が世に出る。そんな流れが、熊本の阿蘇を水源として生まれています。

column

菱江隆さんの
これまで

菱江隆さん

1955年
神戸で生まれる。
1970年(15才)
高専入学。京料理店でアルバイト。
1975年(20才)
神戸製鋼入社。居酒屋でアルバイト。
1976年(21才)
サパークラブ「花とおじさん」開店(神戸市)
1977年(22才)
「花とおじさん」2号店を開店(神戸市)
1978年(23才)
スナック「花」、喫茶「花」開店(神戸市)
1981年(26才)
オーストラリアへ移住。
日本レストラン「ふじ」勤務(シドニー)
1983年(28才)
日本レストラン「あいさい」
オーストラリア店開店(パース)
1992年(37才)
フードマスターライセンスを取得
1994年(39才)
日本レストラン「あいさい」
フィリピン店開店(マニラ)
2000年(45才)
仕出し・弁当
「じゃがいも畑」開店(福岡県)
2001年(46才)
帰国
2002年(47才)
地鶏炭火焼専門店
「鳥王」開店(熊本県)
2007年(52才)
加工工場開設
2010年(55才)
キングフーズ有限会社に改名

「pomodoro」(ポモドーロ)とは……「pomodoro」(ポモドーロ)とは……

 「熊本がもっとおいしくなる」をコンセプトに、熊本のグルメ情報や文化をお伝えするフリーマガジンです。年3回発行し、熊本市内の交通要所や観光名所等で配布しています。

 pomodoroは、トマトを意味するイタリア語。
 イタリア料理の食材と、熊本で採れる食材は共通点が多いことから名付けました。

 フリーマガジンとウェブ版である当サイトは、阿蘇の高森町に第二本社を置く出版社コアミックスが発行・運営しています。