『肥後国海中の怪(アマビエの図)』(京都大学附属図書館所蔵)
全国的な知名度を得て活躍する、熊本が誇るキャラクターといえば−−。言わずと知れた、くまモン。累計発行部数が1億部を超え、今年創刊20周年を迎えた、阿蘇ゆかりの絵物語の主人公ボノロン。肥後の海上出身であることが、意外と知られていない妖怪アマビエ。そんな“3大キャラクター”のことを、熊本のことが気になるあなたにもっと知ってもらえたらうれしくて、ご紹介します。
あつまれ!
みんなのアマビエ
疫病退散を願い、
多くの画家や漫画家が、
コロナ禍の時期も
百日せきがはやる今年も、
アマビエの絵を描きました。
個性的なアマビエが大集合!

新久千映さん
『ワカコ酒』

こうの史代さん
『この世界の片隅に』ほか
初出「小説トリッパー2020年夏季号」(朝日新聞出版刊)

辻秀輝さん
『蒼天の拳リジェネシス』作画

ヨリフジさん
熊本出身。
『聖印の乙女〜元薬学研究員だった侯爵令嬢は婚約辞退してハイヒーラーを目指します〜』構成

モリコロスさん
『猫と紳士のティールーム』

ロベルト エフさん
ブラジル出身、熊本在住。
第4回世界サイレントマンガオーディション準グランプリ受賞。

フクイタクミさん
『終末のワルキューレ』構成

ヒカリンさん
『森の戦士ボノロン』絵(2022年10月号〜2025年10月号)
コロナ禍に大ブーム!
あの妖怪アマビエは
熊本出身!?
コロナ禍に、一躍注目を集めた妖怪アマビエ。
実は熊本の妖怪であることを知っていましたか?
その姿を描き写すと、疫病が祓われる。
そんなご利益をもたらすとされる、人魚のようなこの不思議な妖怪は、多くの人に描かれる人気キャラクターになりました。
熊本大学で妖怪を研究する鈴木寛之さんが教えてくれた、アマビエのおもしろさをご紹介します。
弘化三(1846)年、肥後国(現在の熊本県)の海上に妖怪が現れたと瓦版(ニュースを伝える印刷物)で伝えられました。鳥のようなくちばしに長い髪、人魚のような鱗と3本の足をもつその妖怪は、アマビエと名乗ります。そして、この先6年は諸国で豊作が続くことを告げる一方、疫病が流行するとも予言。自身の姿を描き写した絵を人々に早々に見せるよう話したとされています。
「しかし、当の熊本県にアマビエについての記録や言い伝えはありません。肥後の海上に現れたことも含め、その存在が広く知られるようになったのは近年のことです」。熊本大学文学部准教授の鈴木寛之さんは、そう教えてくれました。
「アマビエの予言にある凶作や疫病は当時、人間の力ではどうすることもできない天災のようなものでした。そのため、それらからどうやって自分たちの身を守るかは、大きな関心ごとでした。アマビエは、お守りのようなものとしてはやったものの一つではと思います。瓦版に載った弘化三年は、天然痘が大流行した年でもありました」
やがて令和の世になり、新型コロナウイルスが猛威をふるいました。その渦中の2020年3月、くまモンがアマビエの仮装をして話題に。さらに、くまもと森都心プラザ図書館がSNSで瓦版の情報を拡散したことがきっかけの一つとなり、アマビエは一気に注目を集めます。“アマビエチャレンジ”と称して、アマビエの絵を描いてウェブ上で公開することがブームとなったのは、この頃です。「コロナのとき、特に初期は恐怖感が強かったですよね。そんなとき、かわいい絵を描いたり、見たりすることで、つらい現実から気をそらせる。それはいまも昔も変わらないのかもしれません」(鈴木さん)
実はアマビエは、自分の絵を人に見せるとどうなるかを話していません。しかし、「それが疫病退散の願いにつながるとわかるのは、似たような妖怪がいるから」と鈴木さんは言います。民俗学者の湯本豪一氏が予言獣と名付けた、予言する妖怪。九州では豊前や肥後に、「アマビコ」や「神社姫」など、予言獣の伝承が多く残ります。「アマビエが描かれた瓦版の読者は、江戸や大阪など都市部の住人が多い。彼らにしてみると、九州は遠く離れて実態がよくわからない、不思議なことが起こる場所だったのかもしれないですね」

『肥後国海中の怪(アマビエの図)』(京都大学附属図書館所蔵)
「鳥のようなくちばしがあって3本足で、不気味なのにどこか愛嬌があるアマビエは、アレンジがしやすく人気が出たのでは」と鈴木さんは推測します。
アマビコは、3本足の猿のような姿で、アマビエと同様に疫病の流行を予言。自分の姿を描き写したものは難を逃れる。そう伝えたとされる妖怪です。このことから湯本氏は、「アマビエ」は「アマビコ」の書き間違いではと推測します。
「アマビコというありがたいものがいたとして、名前を書き間違えたらご利益がなくなるのではとも思いますよね。けれども、そこにアマビエという妖怪のおもしろさがあります」と鈴木さんは語ります。
「人々の切実な願いがあると、それに応える神がかったものが出現する。その根底にある本質的なことは、名前を書き間違ったぐらいでは損なわれない。地域や時代に合わせて柔軟に変化できる、融通がきく存在なのかもしれないですね。
民俗学者の柳田國男は妖怪について、多くの人がきちんと信仰すれば、神様のように恵みをもたらす一方、見向きもしなくなれば妖怪として悪さをすると考察しています。アマビエは、日本人の妖怪や神様に対する向き合いかたを伝えてくれているのかもしれません」
夏は、妖怪の季節。熊本の夜の海に目を向ければ、そこには——。

天草から望む、八代海の内海。
朝焼けで赤く染まる雲が映る様子は、
妖怪を見たという話にも思わずうなずける神々しさ。
熊本大学文学部准教授
妖怪研究者
鈴木寛之(すずきひろゆき)さん
水木しげる著『ゲゲゲの鬼太郎』を読んだことがきっかけで、妖怪研究の道へ。妖怪が登場する漫画やアニメを通した地域振興や、各地の伝承・妖怪文化のPRの研究も行っている。


