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“特別”をあなたに飲んでもらいたい。牛への敬意と愛情が育む唯一無二の1本。

2025/12/02

“特別”をあなたに飲んでもらいたい。牛への敬意と愛情が育む唯一無二の1本。

Photo/
Yamagashira Noriyuki, Kodera Hiroyuki Styling/Joh Motoho
Text/
Kasahara Minoru

世界が認めた
「ASO MILK」の
世界へ。

熊本県阿蘇市三久保。
隆々たる山々と大草原が広がるこの土地に、
世界が認めた高品質のミルクが生まれる阿部牧場があります。
その背景には、何があるのでしょうか?
「ASO MILK」の秘密と、おいしいおみやげをたっぷりご紹介します。

健康な牛を育てる。
おいしいミルクは“結果”。

 1968年、阿部牧場は1頭の牛から始まりました。「父の代から阿蘇で酪農をしており、この土地は草が豊富だったため、それをえさにしていました」と語るのは牧場主の阿部寛樹さん。海外から安く飼料を仕入れていた酪農家が多かった当時、阿部牧場は“草づくり”に精を出していたと言います。
 「創業時から自然の恵みを活かすことを意識していました。阿蘇の大草原の牧草を食べ、きれいな地下水を飲んだ牛の堆肥を土へ還し、栄養豊富な土壌から新しい牧草が芽吹く。そんな大昔から変わらない営みが私たちの牧場にはあります」。阿部牧場ではこの思いを【牛づくりは草づくり、草づくりは土づくり】というコンセプトとしてスタッフ、そして外部に向けて発信しています。
 さっそく、「ASO MILK」をいただいてみました。まず、おどろいたのが清涼感です。牛乳臭さがほとんどなく、後味もすっきりと爽やか。なのに、確かに甘みを感じるおいしさ。香りからは草原の風景が目に浮かぶようでした。このクセのなさは、料理やお菓子に適していると思いますし、牛乳が苦手な人にもおすすめです。
 ふだん、私たちが口にする牛乳は、乳業メーカーが牧場のある地域をまわり、生乳を集め、大きなプラントで殺菌処理して世に出している商品です。つまり、いくつもの牧場の乳が混ざりあった牛乳なのです。また、現在販売されている牛乳の9割が超高温瞬間殺菌(120~150℃で1~3秒間加熱殺菌する方法)で行っている一方、阿部牧場のミルクは63℃で30分間の低温殺菌をしています。低温殺菌は時間がかかる分、生乳本来の甘味や風味、コクをほとんど損なわずに殺菌することができます。こうしたこだわりは、自社ブランドを持つ牧場の強みであり、おいしさの秘訣です。
 「おいしいミルクを生産するためというより、健康な牛を育てるという意識で飼育しています。健康な牛が子を産み、その子牛のために出すミルクを私たちがいただくという感覚です」。主役は牛だという阿部さんの目はキラキラと輝いて見えました。なぜここまで牛のために夢中になることができるのでしょうか? そこには、阿部さんの半生と、環境の変化がありました。

阿部寛樹さん

牧場主の阿部寛樹さん。
撮影中、阿部さんのまわりには人だかりならぬ、
牛だかりが。なんだか牛もうれしそう。

阿部牧場の牛

2024年3月18日現在、
牛の数は775頭。
生乳の日量は11t〜12tほど。

ぶつかっても
父とは
違う方法を選択。

 グラフィックデザインの仕事に興味があった阿部さん。将来のことはすごく悩んだそうです。悩んだ末に、北海道の帯広畜産大学で酪農の専門的な知識を学び、卒業後は地元に帰る選択をしました。
 けれども、両親の手伝いとして酪農に携わるなかで問題が起こります。「父とは何度かぶつかることがありました。酪農の勉強会に参加したり、最新の情報を蓄えたりすると、試したくなるんです。そうすると父の方法とは合わなくなるんですね。たとえば、牛には4つ乳頭があるんですけど、父は搾乳するときに、乳頭だけじゃなく乳房全体まで時間をかけてきれいに拭いていました。
 でも、牛は子が吸い付いてからだいたい45秒から1分くらいで乳が出始めるんです。だから、父の方法ではかえって牛にはストレスだろうと思って変えたんです。しかし、父は『それは正しくない』と。職人気質なので、理屈で説明しても理解してもらうのは難しかったですね」
 それでも、阿部さんは自分のやりかたをあきらめず、牛づくりの改革を押し進めました。「えさのことでいうと、父は生えている草のみを牛に食べさせていましたが、私は新しい種をまき、草の品種を増やしたり、変えたりしていました。いまは5種類の牧草を、牛の成長段階に合わせて配合を変えて与えています。このことは、私を認めるきっかけになったと父は言いました。ずいぶん後でしたが(笑)」

搾乳の様子

搾乳の様子。「搾られたい」と牛が長蛇の列をなす。

牛の搾乳

多い時で1日に約400頭の牛の搾乳をする。

災害を乗り越え、
気づいた
地元の誇り。

 阿部さんは日本中のミルクプラントを見学。資金を貯め、6年間に及ぶ入念な準備を経て、2010年に自社ブランド「ASO MILK」を誕生させました。「酪農家にとって夢なんですよ。自分の名前で牛乳を世に出すのは」。こうしてブランドを立ち上げ、順調に事業を伸ばしていたところに、熊本地震が起こりました。
 「生乳の88%は水分なので、水は牛にとって重要です。阿蘇は地下水が豊富なので、パイプを通して汲み上げていたのですが、地震で地面がずれて水が出なくなった。しかたないので、1・5㎞離れた水源から人力で水を運んでいました。飲み水だけで60t必要だったので、搾乳する水とか、洗浄する水とか、全部を合わせると膨大な量に。スタッフが牧場に寝泊まりしながら24時間体制で運んでいました」
 全員が疲弊し、心折れかけたとき、人の温かみに支えられるできごとがありました。
 「いろんな支援をいただきました。たとえば、知り合いのトラック運転手が福岡から貯水するためのタンクを運んできてくださったんです。お礼のお金も受け取らずに帰られました。あとで知ったのですが、肋骨が折れているのに娘さんの補助を受けながら、福岡からトラックで運んでくださったそうです。ありがたいですよね」
 人と人とのつながりを感じた阿部さんは、どんなに大変なときでも、つくる誇りを大切にしようと気づかされたそうです。

1日中、牧草食べ放題

阿部牧場の牛は、
1日中、牧草食べ放題。

ミキシングフィーダー

大量の牧草を牛の目の前まで運ぶミキシングフィーダー。

三つ星受賞。
その背景には
信念と恩返し。

 なんとか自社の態勢は持ちこたえられても、情勢がすぐによくなるわけではありません。「地震のときは、お客さんも来なければ、売り先もありませんでした。牛にも影響があって、震度4以上になると落ち着かなくなるんです。ストレスですよね。発情期が来ないとか、妊娠できないとか、人間でいう生理不順になる牛がいました」
 苦しい状況、将来への不安。短期的に考えればよそから牛を買って、生乳量を維持する選択肢もありました。しかし、阿部さんは苦しくてもそれまでの取り組みを続けます。
 「私たちの大きな仕事は牛の子づくりです。乳牛の平均寿命は7歳くらい。だから2歳で初めての出産をしたあと、5回ほど妊娠、出産をして一生を終える。私たちはその手伝いのなかで恩恵をいただいているにすぎない。父の代から続くその考えかたと取り組みを、根本から変える必要はないと思いました」。芯にあるその意思が、「ASO MILK」のブランドが愛される所以だと思いました。事実、「ASO MILK」は食品のミシュランガイドと称される「iTQi(国際味覚審査機構)」にて、牛乳と飲むヨーグルトが日本初の優秀味覚賞“三つ星”を獲得しています。
 このときも思い浮かんだのは、阿蘇という土地への恩返しでした。「12年に九州北部豪雨で阿蘇が被災し、このあたりも床上浸水などの被害が起きて観光にも大きな打撃でした。明るいニュースの1つになればと思い、13年にチャレンジして受賞できたのはありがたいことでした」

阿部牧場

雪がまだ残る3月中旬。
取材で訪れた阿部牧場の牧草地。
黒く焦げた部分は野焼きのあと。

阿蘇の
子どもたちに
伝えたいこと。

 最後に阿部さんが思い描く未来について質問しました。「実現したいのは、食の生産現場と消費者を近づけるということです。チーズづくりのために、イタリアのポンティローロ・ヌオーヴォという田舎に見学に行ったとき、そこで目にしたことに衝撃を受けました。ピザのレストランが何軒も並ぶメインストリートをすごく臭い生糞を乗せたトラクターがウロウロしているんですよ。しかも糞をポトッポトッって落としたり。日本でそんなことが起きればクレームですよね? だから、誰か文句言わないのかと聞いてみたんです。そしたら、『何を言っているんだ。彼らのおかげで毎日おいしいピザを食えるんじゃないか』と言うんです」。日本でも、当たり前だったはずの光景。しかし、おいしいものが当たり前にある現代では、生産者と消費者の距離は離れるばかりだと阿部さんは言います。
 そういう危機感を抱いている阿部さんだからこそ、自身がメッセンジャーとなって大学で講義したり、地元の小学校に通って子どもたちが牛乳を飲む様子を観察したりしてきました。また、21年からは直営店として「ASO MILK FACTORY」をオープン。自社の製品だけではなく、地域の農産物も扱う道の駅のような役割を果たしたり、チーズ工房・スイーツ工房を見学できるようにして、つくり手の顔が見えるようにしたり、レストランやカフェで搾りたてのおいしさを味わえたり、まさに生産現場と消費者を近づける場所として運営しています。
 「たとえば4月、『ASO MILK FACTORY』は地元の小学校・中学校の新入生全員にソフトクリーム無料券を配るんですよ。知っていてほしいじゃないですか、地元においしいソフトクリームがあることを。11月には『どんぐり交換』もしています。保育園や幼稚園の子がどんぐりを集めて持ってきたらソフトクリームと交換します。みんな一生懸命ですよ」。そう語る阿部さんの表情は穏やかで、未来に向けた希望にあふれていました。
 みなさんも熊本・阿蘇にお越しの際は、「ASO MILK FACTORY」で遊び、食べ、おみやげに買ってみてはいかがでしょうか?

牧草のロール

積み上がった牧草のロール。

おいしさ直送
ASO MILK FACTORY

ASO MILK FACTORY

ASO MILK FACTORY

カフェ・ショップ・レストランが一体となったグルメパーク。採れたての阿蘇の農産物が買えたり、「ASO MILK」を使ったできたての料理を味わえたり。食べて遊んで過ごせる「ASO MILK FACTORY」の魅力を紹介します。

1日中、牧草食べ放題

スイーツ工房でバウムクーヘンを焼く様子を見学。
滴るタネ、漂う甘い香りが訪れた者をおみやげコーナーへと誘います。

チーズ工房

チーズ工房で熟成チーズとおいしさのにらめっこ。
見ているだけで口の中に濃厚なチーズの味が湧き出てきそうでした。

「ASO MILK」ソフトクリーム

カフェで味わう「ASO MILK」ソフトクリーム(450円・税込)

濃厚で爽やか、最後の一口までぺろりとおいしいです。
これからの季節におすすめです。

マルゲリータ

レストランで味わうマルゲリータ(1,800円・税込)

できたてアツアツの生地とのび〜る「ASO MILK」モッツァレラチーズがたまらないです。
ほかにもチーズがけハンバーグや「ASO MILK」のジェラートなど食べつくしたいメニューばかりです。

ASO MILK
おすすめみやげベスト6

ポモドーロ編集部が食べておいしかったおみやげをピックアップ。「ASO MILK FACTORY」のほか、通販でも購入できます。こだわりが詰まった厳選商品が手軽におうちで楽しめます。

ASO MILK width=

ASO MILK
800ml×3本セット 2,690円(税込)

看板商品の「ASO MILK」。iTQi(国際味覚審査機構)の審査員に「本物の牛乳の味だ」「デリケートでクリーミー」と言わしめた三つ星の味。

ASO MILK飲むヨーグルト

ASO MILK 飲むヨーグルト
200ml×8本セット 2,700円(税込)

三つ星商品「ASO MILK 飲むヨーグルト」。ほのかな甘味が喉を通り過ぎたあと、口内に爽やかなヨーグルトの香りが広がります。

ASO MILK カッサータ

ASO MILK カッサータ
2本セット 3,000円(税込)

手づくりのリコッタチーズをベースにしたカッサータ。シチリア島発祥のアイスケーキで、ナッツやドライフルーツの食感がおいしいです。

ASO MILKUCHEN ハード&ソフト

ASO MILKUCHEN ハード&ソフト
3,500円(税込)

ASO MILKを使用したバウムクーヘン。ソフトタイプはミルク感たっぷりのやさしい味。ハードタイプは表面はカリッと中はジュワ〜と濃厚なデザート。

阿部牧場おすすめチーズセット ウォッシュ

阿部牧場おすすめ
チーズセット
ウォッシュ
4,010円(税込)

モッツァレラ、カチョ、セミハード、ウォッシュチーズのセット。おつまみに、サラダに、日頃の食卓がちょっと豪勢になる贅沢な味。

これらの商品は阿部牧場のオンラインショップ、その他下記店舗でもご購入いただけます。
■ オンラインショップ:https://asomilk.com/
■ 阿蘇エリア/阿蘇ファームランド、あそ望の郷くぎの、道の駅阿蘇
■ 熊本市内/鶴屋百貨店、フーディーワン
■ 熊本県内その他/アミュプラザくまもと、熊本駅、熊本空港
■ 東京/日本橋高島屋

column

世界が認めた
「ASO MILK」

iTQi(国際味覚審査機構)から届いた報告書
iTQi(国際味覚審査機構)から届いた報告書。優秀味覚賞を表す「3 Golden Stars」の一文が。世界が認めたミルクをぜひ味わってください。

column

牛乳瓶のデザインに
込められた思い。

牛乳瓶のデザイン
牛乳瓶のタテの赤線は「1軒の酪農家のこだわりをまっすぐ届ける」という意味。そして、飲み終わると隠れていたヨコの赤線が出てきて「あなたにプラスがありますように」という願いに変わります。この牛乳瓶のデザインは、世界的なパッケージデザイン賞「Pentawards2011」の食品デイリープロダクト部門において、最高賞である「GOLDAWARD」を受賞。

店舗情報

阿部牧場

●所在地/〒869-2302

熊本県阿蘇市三久保47-1

●電話番号/0967-32-0565

●FAX/0967-32-0376

●WEBサイト/http://asomilk.com

●MAP/阿部牧場

ASO MILK FACTORY

●所在地/〒869-2307

熊本県阿蘇市小里781

●営業時間/9:30〜18:00

●定休日/年中無休

●営業時間/11:00~14:30(ランチタイム)

14:30~17:00(ティータイム)

●電話番号/0967-23-6262

「pomodoro」(ポモドーロ)とは……「pomodoro」(ポモドーロ)とは……

 「熊本がもっとおいしくなる」をコンセプトに、熊本のグルメ情報や文化をお伝えするフリーマガジンです。年3回発行し、熊本市内の交通要所や観光名所等で配布しています。

 pomodoroは、トマトを意味するイタリア語。
 イタリア料理の食材と、熊本で採れる食材は共通点が多いことから名付けました。

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