阿蘇の南小国町に、「そば街道」なるものがあると聞いた、日本そば好きの編集部員。さっそく取材に行きました。
熊本のそば街道の歴史と、おすすめのお店をご紹介します。
そば街道、
発祥秘話。
「そば街道」は南小国町の中心部にあります。いつ、どのようにしてでき、どんな歴史をたどってきたのでしょうか。創設者の一人で、「吾亦紅(われもこう)」の店主である佐藤秀治(さとう・ひではる)さんにお話を聞きました。
「約30年前、南小国町は都市部へ人が流れ、過疎化が進んでいました。そのことにたまらないさびしさを感じた農家の私は、生まれも育ちも南小国町の有志3人と協力し、野草園『花の郷』を開園して、南小国の自然の豊さをPRして町おこしをしようと考えました」
しかし、現実は厳しく、野草を目的に来てくれる観光客は多くありませんでした。「そこで、『花の郷』に休憩処があれば観光客が来やすくなるのではと思い、『花郷庵(かごうあん)』というお店を開業しました。最初はそばではなく、手づくりの団子などを販売していましたが、当てが外れて観光客は増えませんでした。どうしたものかと4人で途方にくれました」
そんなとき、同郷の知人から言われた、「南小国の湧水と自然あふれる環境は、おいしいそばづくりに最適では?」という言葉に、目を開かれた思いがした佐藤さん。「熊本はもともとうどんが盛んな土地のため、そばという発想が私たちにはありませんでした。知人のその助言がきっかけでそばづくりについて調べ、学び、『花郷庵』で提供したことが『そば街道』のはじまりです」
続けて、佐藤さんは当時の思いを語ってくれました。「複数のそば屋を開店して『そば街道』として売り出せば観光客が増えるのではと考え、最初からそば街道を謳(うた)いました(笑)。その1年後には私が2店目となる『吾亦紅』をオープン。他店も開店し5店舗がそろい、観光客も増えました」
ただ、佐藤さんたちの熱意から生まれたそば街道も、当初は反対の声もあったのだそうです。
「地元の人からは、『こんな田舎にわざわざそばのために観光客なんて来ないだろう』という呆れ声と、『これで観光客が来てくれるとありがたいね』という応援の両方が届きました。それでも、自分たちにできることは、来てくれるお客様においしいそばを提供すること。当初はそばを打てるメンバーがいてその人に習いましたが、基本を学んだあとは試行錯誤の繰り返しです。そばづくりの本で調べたり、他県まで食べに行ったりしながら、毎日新しいことを試し、30年間そばづくりを探求してきました。いまでは、それぞれのお店ごとの味ができて、多くの観光客がそば目的で来てくれるようになったので、努力してきた甲斐がありました。これからもそば街道を盛り上げていきます」と笑顔をのぞかせる佐藤さんでした。

南小国町を流れる一級河川・馬場川。
豊富な水量で、肥沃な農地や人々の暮らしを支えています。
「そば街道」発祥の店。
のどごしのよいそばと
素材にこだわった野菜てんぷら
「花郷庵」

「花郷庵」のそばづくし
2,300円(税込)
二種類のそばを味わえるだけでなく、舞茸と野菜の天ぷら盛り、そば粉のアイスクリームまで楽しめるメニュー。

地鶏そば
1,700円(税込)
肉厚でうまみを含んだ地鶏を甘辛く煮込んだ一品。地鶏のジューシーな肉汁と香ばしさは、そばとの相性抜群です。
注文したのは、地鶏そばと野菜のてんぷら、高菜めしがセットとなった「うまかもんそば」。
木漏れ日に、光り輝くそばの束を持ち上げると、打ちたてのほのかなそばの実の香りと甘辛い出汁の香りが漂い、食欲をそそります。麺をつゆにひた浸し、最初のひと口を食べてみました。ひと口噛むごとに、そばの実の香りと甘いつゆが口のなかでシンフォニーを奏で、弾力とコシのある食感、そして地鶏の甘みがよく出た出汁の風味に驚かされます。地鶏は親鳥を使っているとのこと。コリコリとした食感がたまりません。
そして、野菜の“天ぷらタワー”にも箸を伸ばしてみました。口に入れると、肉厚でジューシーな舞茸の天ぷらの香りが口のなかに広がります。抹茶塩をつけてみると、ほのかな塩味と抹茶の香りが舞茸の上品な香りと非常に合います。ひと口噛むごとに、舞茸のエッセンスが口のなかに広がり、深いコクと、柔らかくもしっかりとした食感が満足感を与えてくれます。そしてその舞茸の香りによって、そばの出汁のうまみが引き立ちます。
食べ終えたときには深い満足感と、店主への尊敬でいっぱいの気持ちになりました。この最大限に魅力を引き出された素材が連なる魅惑のフルコースを、ご賞味ください。

色鮮やかな「花郷庵」名物・野菜のてんぷら。
ボリュームたっぷりで満足すること間違いなし!

素材にこだわり、全国から仕入れている店主厳選の野菜。

冷たい湧水でしっかりしめたそばは、コリコリした食感とツルツルののどごしを楽しめます。

「23年間毎日おいしいそばづくりを勉強しています。」と笑顔で語る「花郷庵」二代目店主・佐藤岳史(さとう・たけし)さん。
風味の舞を堪能。
濃厚なあか牛南蛮そばと
みずみずしいくず葛きり
「そば街道 吾亦紅」

「吾亦紅」のあか牛南蛮そば
2,150円(税込)
熊本名物あか牛のランプ肉(腰の部位)をサッと焼き、タレで煮込んでいます。葛きりや葛とうふ、そばがゆも付いたうれしいセット。
店内に入ると、店主であり「そば街道」の歴史を語ってくれた佐藤秀治さんが「あか牛南蛮そば」で迎えてくれました。
出汁のなかにそばを落とし、それをひと掴みして口に入れると、コシがありながら絹のように滑らかな麺が、濃厚なあか牛のうまみが出た出汁と絡み合います。楽しい食感とのどごし、そして出汁の芳醇な風味が見事に融合しているのです。
続いて、「葛とうふ」に箸を伸ばします。阿蘇のジャージー牛乳を使っているため、クリーミーな味わいが口いっぱいに広がります。ゆず味噌も後からしっかり辛味を感じさせ、豆腐の舌触りにアクセントを加えています。
口のなかで、あか牛南蛮そばと葛とうふの天上の感覚と風味の舞を楽しんでいるうち、そばがゆに移ります。ひと口食べると、温かく香ばしい味が舌に広がりました。そばがゆが舌を覆うと、肌寒い日に温かく抱擁されるような感覚に包まれていきます。
あか牛南蛮そばセットを締めくくるのは、美しく上品に盛りつけられた葛きりです。麺が黒蜜とやさしく混ざり合い、ひと口食べてみると、ゼリーの繊細な甘みが口のなかで踊り、黒蜜の甘みとしっかり調和していきます。甘党の私も大満足な、夏にピッタリの一品でした。

春から秋にかけては長野産と北海道産のそばの実をブレンドし、秋から春にかけては阿蘇のそばの実を使用。

他県から、この「葛きり」を食べるためだけに来店されるお客様もいるほどの人気メニュー。

「そば街道」創設者の一人である佐藤秀治(さとう・ひではる)さん。今なお調理場に立つこともあるそうです。

そば街道

❶
花郷庵(かごうあん)
●住所/〒869-2401 熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場2862
●営業時間/10:00~15:00
●定休日/水曜日(祝日の場合は営業)
●電話番号/0967-42-0193

❷
御蕎麦処
鬼笑庵(きしょうあん)
●住所/〒869-2401 熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場2908-1
●営業時間/10:00〜16:00
●定休日/火曜日
●電話番号/0967-42-0408

❸
手打そば処
戸無のそば屋
●住所/〒869-2401 熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場2920ー1
●営業時間/11:00~15:00
●定休日/木曜日(天候次第)
●電話番号/0967-42-1510

❹
蕎麦菜(そばな)
●住所/〒869-2401 熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場3220ー3
●営業時間/11:00〜15:30
●定休日/不定休
●電話番号/0967-42-1755

❺
そば街道
吾亦紅(われもこう)
●住所/〒869-2401 熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場3220
●営業時間/10:30〜15:00
●定休日/不定休
●電話番号/0967-42-1820



