熊本ラーメンは、とんこつだけではありません。
熊本市内最古の神社のほど近くに、日本料理の道を30年歩んだ店主が手がける、出汁を存分に堪能できるラーメン店があります。
その味を愛して通う、熊本在住の人気画家・松永健志さんから届いた絵と言葉もご紹介します。
健軍(けんぐん)町に
新たな名店誕生。
熊本市電の健軍校前駅から徒歩5分、健軍神社のすぐそばにあるラーメン店を知っていますか?
お店の名前は「麺処 きのゑ」。その厨房に立つのは、長年、和食の料理人として研鑽を積んできた、益田勝さんです。料理好きだったお祖父さまに影響を受けて、家で食事の支度をするようになった益田さん。地元の食材を生かせる日本料理を仕事にと、熊本市東区にある料理店で修行をはじめます。それから30年、和食の道一筋を歩んできました。

益田勝(ますだ・まさる)さん
熊本市東区の和食店に、料理人として30年勤務。2021年12月、「麺処 きのゑ」を開店。
しかし、2019年、新型コロナウイルスの流行に見舞われ、来店客が著しく減少。お店の立ち退きの話が出たこともあり、益田さんは時代に合った業態を模索します。ラーメン店はコロナ禍でもお客さんを集めていたことから開業を決め、2021年12月、「きのゑ」をオープンしました。
「熊本でラーメンといえば、スープはとんこつです。けれども、苦手な方や別の味を楽しみたい方もいると思っていました。そのような方々に向けて、鶏と野菜をベースにしたスープを考えました」
最もよく注文が入るという、特製塩らぁ麺をいただきました。目の前に運ばれてきたラーメンを見た瞬間に、思わず「美しい!」とつぶやいてしまうほど、澄んだスープに目を奪われます。飲むと、鶏の旨みだけでなく、複数の味を感じます。何が入っているんだろうと想像できる喜びがあります。麺をすすると、ツルツルとした麺がスープを一緒に口のなかに運んできて、のどごしもよく、食べる手が止まらなくなりそう。

特製塩らぁ麺 1,200円(税込)
豚肩ロース・鶏むね身・とりつくね・味たまご・糸島めんまの5つがトッピングされた、いちばん人気のラーメン。

とり白湯 1,200円(税込)
白濁した濃厚な鶏スープには、熊本らしいマー油がマッチ。女性客にも人気です。

トッピングの「鶏むね身」は、いわば鶏のチャーシュー。
火入れされて、しっとりやわらか。
具材にも目を向けると、チャーシューは豚と鶏の2種類が。豚は、やわらかくも肉の味をしっかりと保ち、鶏は、しっとりとした食感。「豚と鶏では、加熱したときの旨みの出かたが違うので、火入れの仕方を変えて、それぞれに最適な温度と時間で調理しています」と益田さん。とりつくねも魅力的。食べてからスープを飲むと、つくねに練り込まれた生姜が、複雑な旨みをキリっとまとめて、また新たな味わいに。あっという間に、一杯を食べ切ってしまいました。
野菜・鶏・魚介の
旨みが一杯に。
「和食は、野菜で出汁をとることがあります。フレンチも同様ですが、野菜だけでも十分においしくできるんです」。それだけでも味わい深い出汁に、さらに手間と時間をかけてできたのが、「きのゑ」の透き通ったスープです。そのベースは、11種類の野菜と鶏からとった出汁と、いりこや昆布、椎茸からとった乾物出汁を合わせたもの。そこに、シジミを入れて貝の旨みを、仕上げに魚の雑節を加えることで魚の旨みをと、幾重にも重ねてつくられています。
出汁の基本となる野菜は、熊本県産のもの。「実家が農家なので、できるだけその野菜を使っています。実家にないものも、県内で生産されたものを選びます。和食の料理人のころから、その土地でとれたものをその土地で食べる、いわゆる地産地消がよいと考えていました。いまも自然にそうしています」

味の決め手となる塩は、熊本・天草の天日塩をはじめ、5種類の塩を独自の配合でブレンド。

透き通ったスープと麺をシンプルに楽しめる、出汁らぁ麺(塩・醤油)もメニューに並ぶ。

壁には、きのゑを訪れた著名人のサインや、愛にあふれたメッセージが並びます。
毎日、変わる。
それが出汁の魅力。
益田さんは、毎日つくり続ける出汁について、ずっと変わらず感じていることがあります。
「出汁は、同じものができる日はないんです。同じ食材を使ったとしても、その日の状態や気温などによって、違う味になる。それが出汁というものの本質だと思っています。お客様にも、違いを楽しんでほしいです」
何度足を運んでも、そのたびに別の顔を見せる。そんな出汁のきいたラーメンのおもしろさを、あなたも楽しんでみてください。
熊本の人気画家、
松永健志さんの「きのゑ」愛

「きのゑ」の店内を見回すと、
壁にある印象的なラーメンの線描が目に留まります。
サインを眺めると、それはいま熊本で人気の画家・松永健志さんによるものでした。
このお店のファンである松永さんが彩色して描く、「きのゑ」のラーメンを見たい。
そう思った編集部の依頼を受けた松永さんは、
絵と言葉で、「きのゑ」の魅力を表現してくれました。
松永さんのコメント:
「きのゑ」のラーメンは全種類おいしいのですが、
特にぼくが好きなラーメンはとり白湯らぁ麺です。
濃厚な白湯スープにマー油とにんにくがいっぱい入っていて、
少し酸味もあって元気が出る一杯です。
具も全部おいしくて、
食べ進めるうちにご主人のていねいさが伝わってきます。
ほかにはない唯一無二のとり白湯らぁ麺、
みんなに食べてほしいです。
松永健志(まつなが・たけし)さん
1985年、熊本県生まれ。熊本の風景や静物を力強いタッチで描く油絵で注目される。2015年、「河原町アートアワード」にて4部門の賞を受賞。2017年、長崎書店・長崎次郎書店(小誌第12号で紹介)で初個展。画集に『WHITE』(同書店限定販売)がある。


