写真に写せないほど透明、そんな風に称される阿蘇・産山村(うぶやまむら)の湧水・池山水源から車で5分。志賀食料品店のお豆腐の仕込み場を訪れると、そこにはその名水があふれていました。
お豆腐の8割以上が水でできています。もしそれが名水だったら? 創業百余年の老舗にうかがいました。
「お豆腐づくりは英子が
向いとるよ」
池山水源は名水というだけではなく、豆腐づくりに最適と言われる超軟水。豆腐は硬度が高い水で仕込むと、そのミネラルやカルシウムが大豆のたんぱく質と結びつき、硬くなってしまうのです。「水がおいしいところは豆腐もおいしいの。好みにもよると思うけど、私は柔らかい方が好きかな」と店主の志賀英子(しが・えいこ)さん。志賀食料品店のお豆腐は、大釜で炊かれた大豆のスモーキーな風味が特徴。普通のお豆腐よりひと回り大きく、食べると大豆の濃い甘みとコクの深さが口いっぱいに広がり、心地よい香ばしさが鼻を抜けていきます。「大豆は国産のものを普通の倍使っているから、儲けなんてないのよ」と、どこか楽しそうに話してくれました。
英子さんがお店を継いで40年以上が経ちます。きっかけは「お豆腐づくりは英子が向いとるよ」という曽祖母の遺言でした。「来る人においしいお豆腐を食べてもらいたい」、その思いを英子さんならずっと持ち続けられることを、わかっていたのかもしれません。
沖縄から注文100枚!
人気は全国区の厚揚げ。

少しお醤油を垂らすだけでもうご馳走。
インパクトのある分厚い厚揚げがこのお店の人気商品です。全国各地から注文が入り、一日に100枚つくることもあるそう。高温の油と低温の油でじっくり30分揚げていきます。
「揚げる時間が短いと、冷めたときに縮んでしまう。うちのは肉厚であまり縮まないけど、それでも気を付けたい」とこまめに様子を見て裏返しながら、厚めだったお豆腐がさらに嵩(かさ)を増します。揚げたてをいただくと、お豆腐の深みにザクザクとした食感が加わり、多彩な味の広がりがありました。
厚揚げの味に感動していると、英子さんが厚揚げの煮しめを台所から持ってきてくれました。しいたけ、じゃがいも、こんにゃく、そして厚揚げ。煮てもなお肉厚な厚揚げを口に入れると、じゅわっと汁があふれてきます。煮汁の風味をすべて吸い込んだ厚揚げは、もとの香ばしさやコクも失わず、煮しめのなかで主役級の存在感を放っていました。
お店のなかにはイートインスペースもあり、その場でお醤油も貸してくれます。池山水源から車で5分、ほんの少し足を延ばして、名水の恩恵をこれでもかと詰め込んだ贅沢豆腐を、ぜひ食べ逃しなく。



午前2時から6時頃まで、英子さんは動きっぱなし。



暑い仕込み場でもじっくり揚げていく。


