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人生を変える鶏肉に会いに行こう。焼き鳥居酒屋「ヤキトリマン」

2026/06/24

人生を変える鶏肉に会いに行こう。焼き鳥居酒屋「ヤキトリマン」

Photo/
Yamagashira Noriyuki
Text/
Sugaya Ayaka

幻の地鶏、天草大王。
人生を変える味とはどんなものでしょう。
10年以上前、一本の串焼きが、一人の男性の生きかたを決めました。
それほどの味を、追体験したい。
その一心で訪れた天草。
天草大王の養鶏場と、その直営焼き鳥店「ヤキトリマン」を営む、
田口雄二(たぐち・ゆうじ)さんにお話を聞きました。

「飲み込むのがもったいない」
と思うくらいおいしかった。

 田口さんと天草大王の出会いは10年以上前。30歳で脱サラし、焼き鳥の屋台を始めましたが、思春期を迎えた息子さんに「屋台はみっともない」と言われたことをきっかけに、店舗を構えた田口さん。地鶏をメニューに加えたいという思いがあり、各地の地鶏を仕入れて試していました。「天草大王と出会ったときは衝撃でした。飲み込むのがもったいないと思った」。そこから田口さんは、どんどん天草大王にハマっていくのです。
 「僕が最初に食べたのは、天草大王の串焼きでした」と教えてくれました。ももの付け根の“ソリレス”と、手羽元と胸の間にある“ふりそで”は、どちらも1羽から1本ずつしか取れない希少部位。田口さんが感銘を受けた串焼きを食べさせてもらいました。じゅわっと口の中に広がるすっきりと臭みのない脂、ほどよい弾力。旨味の詰まったたしかな“肉の味”がたまらなく、すぐまた一つ食べたくなります。さらに、天草の自然海塩「小さな海」が相性よく旨味を引き立て、炭火焼きの炭はパリッと香ばしく焼ける備長炭と、細部にまでこだわる徹底ぶり。あのときの串焼きよりも、もっとおいしく。そんな田口さんの思いが詰まっています。

田口雄二さん(右)とお母様のひろ子さん。

田口雄二さん(右)と
お母様のひろ子さん。

生後120日程度の天草大王

生後120日程度の天草大王。
ツヤがあり恰幅がいい。

希少部位のふりそで・ソリレス

希少部位のふりそで・ソリレス
各1本330円(税込)

水炊き鍋で人気を博した
幻の高級肉用種。

 天草大王は、明治・大正期に高級食材として流通。出汁のよさから、当時贅沢品だった水炊き鍋用の食材として、主に博多へ出荷されていました。昭和に入って不況の影響により需要が途絶え、絶滅しましたが、文献や絵画をたよりに2004年に復元に成功。いまでは、田口さんが魅せられた串焼きや、明治の人が味わっていたであろうおいしい出汁を、天草のいくつかの飲食店で楽しめます。
 田口さんが経営する焼き鳥居酒屋「ヤキトリマン」も、その一つ。同店では、水炊きやラーメンもとてもおいしいですが、出汁を味わうならなんといっても親子丼が必食です。炭火で軽く炙(あぶ)った天草大王のもも肉と平飼い卵、8時間煮込んだ天草大王の鶏ガラ出汁。そこに、熊本に伝わる地酒の赤酒、九州の天然丸大豆醤油を加えて完成させます。存在感のある香ばしいもも肉もさることながら、鶏ガラ出汁ととろとろ卵が染み込んだ、天草産こしひかりのお米がまた格別。筆者がこれまで食べたどの親子丼、どの卵かけご飯にも勝る味わいです。
 「天草大王は復元されてからまだ20年。飼育も調理もどっちも知っている人間がいることで、100年続く、後世に受け継がれるものにできる。その役割を、ぼくがしたいと思ったんです」。そうして田口さんは、天草大王を仕入れ始めて5年ほど経った2016年、ついにみずからの養鶏場を始めるのです。

天草大王の鶏油でパリッと焼く

天草大王の鶏油でパリッと焼く。

8時間煮込んだ輝く鶏ガラ出汁

8時間煮込んだ輝く鶏ガラ出汁。

天草大王を育てた手。
その手で捌(さば)いて
調理することの意味。

 田口さんの養鶏場「ヤキトリマンファーム」では、年間1万羽の天草大王を育てています。みかんを栽培していた実家の段々畑を利用し、生育日数別の天草大王の鶏舎を段違いに5棟建てました。ひな雛の時期の育てかたが大事で、その鶏舎は薄暗く、室温を高くし体温を上げることで免疫力を向上させます。さらに最初の1週間は餌を多く食べさせ、これから大きくなっていく体を保てるよう胃を丈夫にします。田口さんが気をつけているのは、「おだやかに育てること」だそう。そこには、天草大王をみずから育て、捌く、田口さんならではの視点がありました。
 雛を見せてもらっているとき、鶏舎にカーペンターズの『雨の日と月曜日は』がゆるやかに流れていることに気がつきました。お好きなんですか? と尋ねると、「音楽はぼくももちろん好きだけど、雛に聴かせています。おだやかな曲を聴かせていると、おだやかな性格の鶏に育つんですよ」と、とっておきの秘策のように教えてくれました。
 養鶏を始めて最初の失敗は、騒がしい鶏に育ててしまったことだと、田口さんは言います。猛々しく突つき合い、身が崩れました。その一方、群れの上位にいけないおとなしい鶏は、餌もままならず痩せていきました。それはお店で捌くときに顕著にわかるそうです。「肉が傷ついていないか、脂が少なくないか、細部を観察しながら捌いています。自分でも食べるし、お客さんの反応を直に見て、それを飼育に活かしていく。その繰り返しですよ」と田口さん。みずからの手で飼育と調理をするからこそ、「こう育てたらこういう味か」とより理解が深まっていくのです。

好きなことを貫く。
飽くなき探究心。

 田口さんは仕入れ先を決める際や養鶏場をつくるとき、さまざまな養鶏場に話を聞きにいき、学んでいたそうです。「いまでもYouTubeを観たり、ネットの情報に触れたりし、活用できそうならどんどん試しています」と笑います。居酒屋と養鶏場の二足の 草鞋(わらじ)を履き始めて8年。2022年には天草大王品評会「食味部門」で金賞を獲っています。朝から夕方までは養鶏場。18時頃にはお店に来て、夜23時頃まで厨房に立つ。大変なはずなのに、田口さんはどこか楽しそうでした。その理由は、いちばん近くで見ていた息子さんが知っていました。
 田口さんが養鶏場にいる間は、37歳になった息子さんが調理場を担い、仕込みをしています。料理のコツを話してもらっていたとき、思春期に「みっともない」とお父さんに言ったことについても聞いてみました。すると、中学生なんてそんなものでしょと苦笑いしながら、「でもいまは、好きなことをとことん貫く姿は、さすがにすごいなと思っていますよ」と教えてくれました。好きなことにこだわること、それを周りが見守ってくれていること。天草大王のこの先100年は、こんなふうに楽しみながら、支え合う人たちの輪の中で、守られていくのかもしれません。

昼は養鶏場で天草大王を育て
夜は調理場に立ち彼らを捌く

昼と夜の二つの顔
昼は養鶏場で天草大王を育て、夜は調理場に立ち彼らを捌く。そうして見えてくる景色の中に、おいしい鶏肉のヒントがある。

天草大王を
味わい尽くす。

天草大王 親子丼

天草大王 親子丼
1,320円(税込)

天草大王 地鶏塩ラーメン

天草大王 地鶏塩ラーメン
980円(税込)
鶏ガラを8時間煮込んだスープに、炭火焼きあるいは低温調理のチャーシュー、平飼い卵とすべて自家製。〆の一杯にぴったり。

天草大王 大手羽先一本焼き

天草大王 大手羽先一本焼き
605円(税込)
その大きさに圧倒される手羽先。肉の味も弾力もしっかりと感じられる大きさで、ボリュームがある。

鳥刺し大王地鶏 5点盛り

鳥刺し大王地鶏 5点盛り
2,178円(税込)
胸肉・もも肉・ささみ・すなずり・レバー。直営店ならではの新鮮さで、すっきり臭みのないレバーに驚く。

もも炭火焼き

もも炭火焼き(中)
1,518円(税込)
天草下浦の石工特製の溶岩プレートで提供。天草大王の鶏油がふわっとジューシーに焼けるコツ。

column

“地鶏”の定義を
知っていますか?

1.素びな
明治時代までに日本に定着した在来種の血が50%以上。

 
2.日数
ふ化日から75日以上飼育していること。

 
3.平飼い
28日齢以降、平飼い。
平飼いとは屋内・屋外を問わず、自由に地面を歩き回れる環境で飼育すること。

 
4.密度
28日齢以降、1平方メートル当たり10羽以下の飼育密度。

 
日本農林規格(JAS規格)のこれらの基準をクリアしたものを地鶏と呼びます。50日程度で出荷する“ブロイラー”が一般的で“地鶏”は日本の鶏生産量の1%ほど。120日程度飼育され、肉の旨みが増して深い味わいになる天草大王は、背丈90cm、体重7kgになることもある日本最大級の地鶏。

column

田口さんの“好き”がぎっしり。
行くとファンになってしまうお店。

焼き鳥居酒屋「ヤキトリマン」

 
子どもの頃に憧れたおもちゃたちが大集合した店内は、同好の人たちだけでなく、家族連れにも楽しいアットホームな雰囲気の居酒屋です。店内にゆるやかに流れる曲をよくよく聴いてみると「今夜も食べにおいでよ、みんなのヤキトリマン♪」というオリジナルソング。料理も店内も、田口さんのこだわりを満喫できます。店頭も抜かりなく、県外のリピーターが自動販売機でレバーのパテやタタキをさっと買っていくそう。

 
昭和レトロな店内
特撮やフィギュア、なつかしい看板が並ぶ昭和レトロな店内。

 
店頭には天草大王の自動販売機
店頭には天草大王の自動販売機。レバーのパテが人気商品。

店舗情報

焼き鳥居酒屋
「ヤキトリマン」

●所在地/〒863-0038

熊本県天草市南町1−1

●営業時間/17:00-23:00

●定休日/不定休

●電話番号/0969-22-6640

「pomodoro」(ポモドーロ)とは……「pomodoro」(ポモドーロ)とは……

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 pomodoroは、トマトを意味するイタリア語。
 イタリア料理の食材と、熊本で採れる食材は共通点が多いことから名付けました。

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