夏の天草でわずか2か月しか出回らないことから、幻の高級ウニともいわれるアカウニ。
美食家はもとより、予約が取れない天草きっての名店「奴寿司(やっこずし)」の店主も、その時期の到来を毎年心待ちにしているほど、味わいは格別です。
あなたも、天草のアカウニならではの“濃厚な体験”をしてみませんか?

2022年に改装した真新しい店内はカウンターのみで8席。
虜になる味わい──。
名店のアカウニで
至福のときを過ごす。
とにかく濃厚。舌の上で身がすっととろけた途端、甘み、うまみが一気にあふれ出し、上品な磯の香りが鼻腔を満たします。食べ終えたあとも口のなかに残る余韻をできるだけ長く感じていたいと思うほど、アカウニの握りは圧倒的な味わいでした。

アカウニの握りは皿に盛らず、客に手渡しするのが“奴流”。
「うちはアカウニに海苔を使いませんし、しょうゆもつけません。何も足さない、それがいいんです」
そう語るのは「奴寿司」の店主・村上安一(むらかみ・やすかず)さん。天草市の上島と下島の境に店舗を構える「奴寿司」は、常に3か月先まで予約が埋まっているほど客足の絶えない名店。村上さんは一代で「奴寿司」を築き上げた、熊本を代表する寿司職人の一人です。村上さんが握りのあとに出してくれたのは、アカウニの茶碗蒸し。卵白と出汁だけでつくった茶碗蒸しの上に、生のアカウニがそえられています。具材や黄身を使わない淡白な味つけだからこそ、アカウニの濃厚さが引き立てられ、つるんとした食感も心地いい一品です。
アカウニの味わいに圧倒されて、夢見心地の編集部員。その様子を見た村上さんが満面の笑みで話します。「アカウニの時期が近づくと毎年うずうずしてくるんですよ。早くこの手で握って、お客さんに食べてもらいたいって」。食べる人だけでなく、寿司職人すら虜にしてしまうのが、天草の夏の風物詩たるゆえんです。

17歳で寿司職人になり、77歳となったいまも一人で板場を切り盛りする村上安一さん。
希少で高級。
それでも多くの人に
天草の味を届けたい。
アカウニは他の種類と比べて、濃厚で甘みが強いのが特徴。天草に広く生息していますが、特に苓北町(れいほくまち)周辺は本場。野生のイルカも多く生息しているほど栄養豊富な海域です。ここで獲れたアカウニは味も香りも格別だと村上さんは話します。例年、アカウニ漁が許可されるのは7月中旬から9月中旬までの2か月間。この時期になると、日本各地からアカウニを目当てに多くの観光客が訪れ、「奴寿司」では県外からの来店客が9割を占めるといいます。
はるばる訪れてくれた人の期待に応えたいと、村上さんはクエやヒラメの握りにアカウニをのせた品も提供していました。しかしいまは、アカウニの握りと茶碗蒸しの2品だけです。その理由が、仕入れ価格の急騰です。村上さんによると、5年ほど前まで1キロで約2万円だった価格が、今年は約10万円。数年で5倍に高騰しています。自然環境の変化による漁獲量の減少などさまざまな要因があるものの、県外への出荷量の増加が、仕入れ価格の高騰に大きく影響しているといいます。
「都心では値段を高く設定してもお客さんは来てくれる。だから高値でアカウニを買うんです。でも天草ではそうはいかない。仕入れ価格が高くなれば、天草のウニを天草の人が食べられなくなってしまう」。天草で生まれ育ち、天草で60年近く寿司を握り続けてきた村上さん。地産地消への思いはひとしおです。
そんな村上さんが、毎年手間ひまをかけてつくり続けているものがあります。アカウニやムラサキウニを冷蔵庫で1年間塩漬けにし、干して乾燥させた調味料、「ウニ塩」です。イカやヒラメなど淡白な魚介と相性がよく、ウニの風味が口いっぱいに広がります。生のウニは日が経つと味が落ちるため、「奴寿司」では獲れたてのウニしか客に出しません。その日余ったウニをコツコツ集め、1年かけて完成するウニ塩には、ウニのうまみや香りだけでなく、少しでも来店客に天草のウニを味わってほしいという村上さんの願いも凝縮されています。
最後に村上さんに聞いてみました。「天草は好きですか?」「大好きです!」。まるで宝物を自慢するように答えてくれた村上さんの瞳は、太陽を照り返してきらめく夏の天草の海のように輝いていました。
夏の天草でしか
味わえない逸品(いっぴん)が
ここにある。
料理はコースのみで提供。昼の部は8,000円(税込)、夜の部は15,000円(税込)から。

アカウニの茶碗蒸し

縞鯵(しまあじ)の握り

イカの握り(ウニ塩をのせて)

車海老の握り

小肌(こはだ)の握り

クエの握り



